古代は巨大!?パラドックスポケモンの大きさを考察中編【比較ポケモン生物学-2】

にににまままにまににままにま二枚貝ホタテです。

 

古代からやってきたパラドックスポケモンは現代の似たポケモンより大きい。その理由を生物学のエッセンスをもとに考えてみよう。という3部作の中編です。

 

そもそも、古代ポケモンは最初から大きかったのだろうか?それとも特定の環境で大型に「進化」したのだろうか。ここでいう「進化」は生物学の方の進化です。

全てのポケモンの祖先ではないかといわれているポケモン、ミュウ。その大きさはポケモンの中では小さい方だ。ということは、最初のポケモンが一番大きくて、時代が進むにつれて小さくなったというわけではなさそうだ。

では、どのような状況で動物の大型化が起きるのだろう。「こういう時に動物は大きく進化する」ときっぱり断言できるような条件は、恐らくない。動物が大型化するか否かには、地形、温度、餌、天敵、繁殖、内臓、運動など影響するものが多すぎる。とはいえ、傾向がないわけではない。動物の中には、同じ仲間でも地域によって大きさが違ったり、特定の環境で大型化したものがいる。それらを参考にしてみよう。

 

ベルクマンの法則
ベルクマンが提唱したこの法則は、ざっくり言うとこんな感じだ。
「体で熱を作る動物、寒い地域ほど大きくなりがち」
全てにおいて当てはまるわけではなく、そういう傾向がある、という程度で考えてほしい。
例としてトラを見てみよう。トラは、雪が積もるロシアから赤道直下のインドネシアまで南北に広く生息している。一種類のトラという種でも、寒いところのトラと暑い地域のトラでは大きさが違う。

福岡市動植物園のアムールトラ、ヒューイ


福岡市動植物園の解説パネルを参考にすると、ロシアや中国北部に生息するアムールトラは、最大で300kgほどになる。ちなみにライオンは最大250kgとか。ライオンを上回り、ネコ科最大の野生動物だ。一方インドネシアスマトラ島に生息するスマトラトラは、大きくても140kg。それでも十分デカいんだけど、寒い地域のアムールトラと比べて重さが半分しかない。

寒いほど体が大きくなる理由は、体温を維持するためだといわれている。熱を作る動物にとって、寒冷地で自身の熱が外に逃げないことは至上命題。せっかくエネルギーを消費して作った熱がすぐに奪われるなんて、冬に窓を開けたまま暖房をつけているようなものだ。だから寒冷地に住む哺乳類や鳥類は体温が逃げにくい。大型化もその一つとされる。

どうして大きいと冷えにくいのか考えてみよう。
ここに、立方体(小)があるとする。1辺1m、表面積は6㎡、体積は1㎥。この立体はもともと10Jの熱を持っているが、表面積1㎡あたり1Jの熱が外に逃げるとしよう。すると、10Jあったのに6Jが逃げてしまい、4Jしか残らない。
次に、辺の長さを2倍にしてみよう。立方体(大)は1辺2mだ。表面積は4倍の24㎡、体積は8倍の8㎥になる。体積が立方体(小)の8倍、つまり立方体(小)を8個くっつけたことになるので、もともと持っている熱は80Jだ。ここから24Jが外に奪われるので、56Jが立方体に残る。熱に関する条件は同じなのに、大きさを倍にしたら熱エネルギーが14倍になったではないか!
このように、立体をそのままの形で2倍の大きさにすると、表面積は4倍、体積は8倍になる。表面積もぐーんと増えるけど、それ以上に体積がぐぐーんと増えていく。動物であれば、筋肉や脂肪がめっちゃ増えるけど、外に逃げる熱はそこまで増えないという仕組みだ。

なるほど。寒い地域の動物が大きいのか!と考えるのはまだ早い。
ベルクマンの法則を説明したなら、逆ベルクマンの法則も紹介しなければならない。

逆ベルクマンの法則
ベルクマンの法則は主に哺乳類と鳥類が対象である。体内で熱を作り出す動物についての傾向だ。では、自身で熱を作らず、周りの温度と同じ体温で生きている魚や爬虫類、昆虫や貝はどうだろうか。ジンベエザメやオオアナコンダヘラクレスオオカブトにオオシャコガイ。どれも暖かい地域の生物だ。ベルクマンの法則の真逆じゃないか!このように温暖な環境に大型の生物がいることをベルクマンの法則に準えて逆ベルクマンの法則と呼ぶことがある。まぁ、ベルクマンの法則に比べると、そこまで専門用語っぽくない言葉ではあるが。

なぜ暖かい地域に大きな虫や爬虫類がいるのだろう。

温暖な地域には寒い地域よりたくさんの生き物が生きている。多様に進化した生き物の中には、大型化したものもいるし、小さいものだっている。ただ、大型化した生き物は目立つし、紹介されやすいからバイアスがかかる。実際、熱帯雨林には小さい虫が死ぬほどいる。科博地球館1階には、フォギングといって、熱帯雨林の一本の木にまるごと殺虫剤をかけ、その木にいる虫を全部集めるというえげつない調査方法で用意された昆虫標本がある。ぜひ科博に行った際は見ていただきたい。なかには大きい虫もいるけど、肉眼で見ても虫かどうかよくわからないような極小の虫の方がはるかにいっぱいいる。そう、前回のブログを思い出してほしい。大きい動物が有名だからといって、みんな大きいわけではない。大きいやつも小さいやつもたくさんいて、その中で大きいやつが目立つのだ。
とはいえ、「暖かい地域の方が大型化に適している」というなら適切だ。昆虫や爬虫類は寒さが苦手。冬は冬眠して成長できない。それに温暖な地域の方が植物もたくさん生えているから餌も豊富。だから「暖かい地域の虫は大きい」というより「寒い地域の虫は大きくなりにくい」といった方がいいかもしれない。

 

せっかくベルクマンの法則を紹介したなら、セットで語られることもある、アレも紹介しよう。アレンだけにね。

アレンの法則

アレンの法則は、寒い地域の動物ほど耳や鼻、しっぽや足が短くなる傾向のことだ。体から出っ張った突起のような部位は、表面積を大きくし、体の熱を外に逃がしやすい。例えば乾燥地に生息するフェネックは大きい耳(厳密にいえば耳介)を持っている。この耳には熱を外に逃がして体を冷やす効果がある。逆に寒い地域の動物の耳やしっぽは小さいことが多い。

埼玉県こども動物自然公園フェネック

なお、ベルクマンの法則同様、あくまで傾向というくらいでとらえてほしい。法則っていうとなんか絶対的なルールみたいな感じするよね。ベルクマンのあるある、とかでもいいと思うんだけど。いやダメか。

 

ベルクマンの法則以外にも、動物が大型化する傾向はある。例えばフォスターの法則、またの名を島嶼化。島の生物は、大型な動物ほど小さくなり、逆に小型の動物が大型化するというもので、コモドオオトカゲなんかが有名だ。Deep Sea Gigantismといって、深海生物が大型化する傾向もある。ダイオウイカとか、ダイオウグソクムシとか。生物を大型化させる要因はいくつもあって、ぶっちゃけ何が要因かよくわからない。そういう意味では、現実の生物もまた、十分に「ふしぎなふしぎないきもの」だと思う。

 

さて、今回の最後に、進化の強力な原動力、共進化に触れたい。

共進化

たとえば、ある草食動物の天敵として大型の肉食動物がいたとする。それに対し草食動物も大型化。すると今度は肉食動物もさらに大きくなり、草食動物も負けじと大型化・・・このように、複数の生物種が互いに干渉し、(擬人化するのは不適切だが)競い合ったり助け合ったりしながら進化する現象を共進化という。事実、大きな草食動物がいる環境には大きな肉食動物がいることが多い。

ただ、動物の守備・攻撃の作戦は大型化だけじゃないだろう。毒を持つ動物もいれば、鎧のような固い装甲を持つ動物、土に穴を掘る動物に、速く走る動物など・・・敵から身を守る対策も多様なのだ。それに合わせて、攻める側の特技も多様である。スーパー戦隊は敵が巨大化したら自分たちもデカいロボに乗って戦うけど、自然界では敵がデカいからといって、自分もデカくなる必要はない。ほかにも抗う方法はあり、大型化はいくつかある身を守る方法の一つにすぎない。プリキュアみたいに身一つで戦おうが、生き残れるんならそれでいいのだ。つうかプリキュアすげえな。よく戦えんなマジで。生物の世界だと毒でフィジカルの力量差を埋めることもあるし、本当は毒とか使ってるのかもしれん。

 

さて、なんやかんや、古代パラドックスポケモン大型化の謎を考察するうえで必要なピースはそろった。と思う。次回はいよいよ古代ポケモン大型化の謎に迫ります。カギを握っているのは、このポケモンだ!

 

ナッシー

 

 

皆さま、首を長くしてお待ちください。そう、アローラナッシーのようにね。

 

参考文献・引用:

北海道大学CoSTEPサイエンスライターズ『シンカのかたち 進化で読み解くふしぎな生き物』技術評論社、2007

 

 

zukan.pokemon.co.jp