こんにちは。ポケモンを生物と比較して研究していることを最近すっかり忘れていた二枚貝ホタテです。
まずは、この文を読んでほしい。
龍の要素がほとんど無いにも関わらず、りゅうのまいをなぜか覚える(タマゴわざ、わざレコードで習得可能)。
これは2023年11月現在、ポケモンwikiのシザリガーのページに掲載されている備考である。はたして、シザリガーにはドラゴン要素がないのだろうか?
実は、同じページにヒントがある。
ポケモンwikiでは各言語でのポケモン名が(全言語ではないが)記載されている。
シザリガーの中国語はこう書かれている。
中国語(普通話・台湾国語) 铁螯龙虾
うーん、日本で使っている字とちょっとちがうけど、1文字目は鉄だな。さすがにわかる。
2文字目、、、これはハサミのことらしい。特にカニ類のハサミをさす。
3文字目、犬みたいな字だが、ぜひこの字をコピペして別ウィンドウで検索してほしい。文字化けして見えてなかったらすみません。
検索していただけただろうか。
そう、シザリガーの中国語名の3文字目 ”龙” は「竜」の異字なのだ。
ちなみに4文字目の虾はエビのことみたいだ。
ようするに、シザリガーの中国語名には竜が入っているってわけ。
ところで、台湾では日本で使われている漢字の旧字体に近い字(繫体字)が使われているのをご存じだろうか。中国本土では簡単な字(簡体字)に省略されていて、日本で使っている漢字と違うのでわかりにくい。だからポケモンって中国語だとどんな漢字かなぁと思っても、簡体字ではぱっと見て字の意味が分からない。が、台湾のポケモンずかんサイト、そう、寶可夢圖鑑であれば、日本人にも比較的分かりやすい形で中国語名を調べられる。早速ヘイガニとシザリガーの名前を調べてみよう!
ヘイガニ→龍蝦小兵
シザリガー→鐵螯龍蝦
シザリガーの1文字目、鐡とは鉄のことだ。
余談だが、繁体字だとルナトーンが月石、ソルロックが太陽岩だ。テキトーか。
コンパンにいたっては毛球だぞ。もっと真剣に名前つけろ。
まぁ、それはさておき、ヘイガニとシザリガーが竜と関係あるって話に戻る。
ヘイガニもシザリガーも名前に龍蝦が入っているわけだが、中国語で龍蝦がなんなのか気になる。
ウィキペディア、もとい維基百科(ウィキペディアの中国語版)で龍蝦と検索すると、そこに現れたのは・・・
・・・イセエビだ。
ザリガニでも、ロブスターでもなくイセエビ?あとで詳しく話すが、イセエビはエビと言っても大きなハサミを持たない。一方ヘイガニ・シザリガーには大きなハサミがある。
よし、ならばシザリガーの後ろ3文字、螯龍蝦で検索してみよう。何かわかるかもしれない。早速維基百科で検索だ!
カタカタカタカタカタカタッ、タンッ!ビンゴだ。(映画に出てくるハッカー風)
どうやら、シザリガーの後半3文字、螯龍蝦はロブスターを意味するようだ。
ちなみに美洲螯龍蝦の美洲とは、北米・中米・南米をまとめた地域のことだ。維基百科によると。
ロブスターは見た目もザリガニに似ているし、日本でもウミザリガニと呼ぶし、実際ザリガニに近い仲間だ。ついでにザリガニの中国語名も調べよう。ザリガニは蝲蛄、または螯蝦だ。おぅ、龍なくなっとるやないかい。
ここまでのデータをまとめよう。
・龍蝦とはイセエビのこと
・螯龍蝦とはロブスターのこと
・螯蝦とはザリガニのこと
このデータを使って、ヘイガニとシザリガーについて考察していこう。
ヘイガニは・・・これなんだろうな?一応名前が似た生物で、ヘイケガニがいる。エビではなく、海にすむカニの1種で、怒った人の顔みたいな背中が特徴だ。壇ノ浦の戦いで源氏に敗れ、海に沈んだ平家の怨念がこもっているともいわれてる。決してケガニに対しHey!と呼びかけているわけではない。
そういえば、2月にしものせき水族館海響館に行ったとき、しれっと展示していたな。壇ノ浦も近いし。
ただ、一つ言えるのは、ヘイガニはカニじゃないだろってこと。恐らくモチーフはザリガニ。図鑑説明などから、アメリカザリガニがモチーフだといえる。つまり、ザリガニのガニってことだ。
・・・あれ?ザリガニはカニじゃないのに名前にガニついてね?
ザリの部分は「退る=すさる」、つまり「あとずさり」のずさりの部分が由来ともいわれている。あとずさりするカニでザリガニ。ザリエビじゃねぇのかよ。もしかしたらハサミが大きいからカニ扱いなのかもしれない。うーん、ヘイガニもザリガニも名前の由来が全然ぱっとしない。明ら'かに'したかったな。カニだけに。一方のシザリガーはずいぶん分かりやすい。シザー+ザリガニだ。
ともかく、ヘイガニもシザリガーも、日本人にとってなじみ深いザリガニがモチーフのポケモンとみて間違いない。もっとも、日本人にザリガニがなじみ深いのは外来種アメリカザリガニが野生化しているからであり、しかもアメザリは条件付特定外来生物になるくらい自然をぶち壊しているわけだが・・・。
次に、シザリガーの頭を見てほしい。
黄色い星みたいなのがある☆
これは恐らく、ロブスターの「スター」のダジャレだ。そう、ヘイガニ系統のモチーフは、ザリガニを基盤としつつ、そこにロブスターの要素が織り込まれているのだ。日本人にとって、特にポケモンのメインターゲットたる日本の子供たちにとって、ロブスターは身近ではない。食用になることもないし、水辺にもいないし、水族館でもほとんど見ることがない。だから、名前なども含め、大本はザリガニのポケモンなのだろう。
一方、中国語ではロブスター要素をより前面に押し出した名前になっている。そして、その名前には「竜」の文字が入る。だから、りゅうのまいを習得するのだろう。
しかし子供たちになじみ深いザリガニをポケモンにするというのは十分理解できるけど、そこにわざわざロブスターのフレーバーを混ぜ込むとは。もしかしたら、ポケモンの製作陣、なかでも影響力のある人物の中にロブスター好きがいるのかもしれないな・・・
LA金曜日のディナーはみんなでご褒美シーフード!ロブスターの右手、デカすぎじゃない?! pic.twitter.com/DA96LOaRTv
— 増田順一@Pokémon (@Junichi_Masuda) 2015年6月6日
では、ここからは生物学の話に進む。カニ・イセエビ・ザリガニ・ロブスターとはどんな存在なのだろうか。
カニやエビ、ダンゴムシやミジンコは節足動物の甲殻類というグループに入る。そのなかでもカニ・エビ・ヤドカリの仲間は十脚目という仲間。十脚目をさらに2グループに分けよう。
実は、ここで人間の感覚とはズレた分類が生じる。
十脚目の2つのグループ、1つめは母親が卵を抱かずにそのままばらまくタイプ。もう片方は卵をおなかで守り、ある程度成長させるタイプ。前者にはクルマエビ・サクラエビなどが入る。で、後者にはイセエビ・ザリガニ・テナガエビ・カニ・ヤドカリなんかが入る。そう、同じエビといっても、クルマエビとテナガエビは全然違う仲間で、むしろテナガエビとカニの方が近い親戚といえるのだ。
ちなみに前者は根鰓亜目、後者は抱卵亜目という。
クルマエビや根鰓亜目のエビは他の抱卵亜目の仲間と違って卵をそのまま海にばら蒔くっていうのは
— ハルチャン星人 (@ALIENHARUCHAN) 2023年6月18日
一般的なエビカニが卵を抱えてる姿からすると凄い見慣れない光景ですね
あと生殖孔が左右一対の二つあるところも脊椎動物の体制を見慣れてるとなんだか不思議です https://t.co/XH3crIOHic
では、卵を抱くグループ、抱卵亜目を見ていこう。さらに細かく〇〇下目というグループに分かれる。ここでようやくカニの仲間(短尾下目、通称カニ下目)とヤドカリの仲間(異尾下目、通称ヤドカリ下目)がエビから分かれる。じゃあエビはエビ下目?というとそうではない。コエビ下目、イセエビ下目、ザリガニ下目などに分かれる。ようはエビたちがいくつかの下目に分かれて、その一つがカニ、別の一個がヤドカリ、みたいな分類なのだ。
さて、先ほどザリガニとロブスター(ウミザリガニ)は近い仲間と紹介した。実はザリガニとロブスターは同じザリガニ下目に属しているのだ。だから見た目も近いし、実際に近い親戚ってわけ。逆にイセエビはそれとは別にイセエビ下目が用意されているように、そんなに近い仲間ってわけじゃない。だって、よくみたら全然似てないもん。
イセエビは大きなハサミを持っていない。じゃあハサミがないかというとそうでもなく、メスの脚の一番後ろがハサミになっている。このハサミを使い、お腹で抱いている卵を世話するのだ。なおイセエビ下目はachelataという。「ハサミがない」という意味。
先ほどイセエビは中国語で竜蝦と書く、と書いた。で、日本でもたまに竜蝦と書いてイセエビを意味することがある。そして、日本には「青竜蝦」という難読漢字もある。一体何なんだ!?
青竜蝦はシャコと読む。実はシャコ、他にも蝦蛄と書くことがあるし、英語でもMantis shrimp (カマキリ エビ)というわけだがシャコは十脚目に入っていないのだ。口脚目という仲間。つまりエビじゃない、というか、カニとかヤドカリの方がよっぽどエビに近い親戚ってこと。あ、でもアナジャコっていう名前の甲殻類もいて、こいつは十脚目アナジャコ下目なんだよね・・・
それにしても、中国語でイセエビ→竜蝦、ロブスター→螯竜蝦と書いたが、実は英語でイセエビをspiny lobsterという。どうやら、ロブスターとイセエビに共通する名称が使われているようだ。つまりイセエビとロブスターは分類やハサミの有無に問わず、同じくくりとみられているみたい。ここから推測されることは、大きくてゴツゴツしたエビ的な生物という位置づけで、同じ単語が使われているのだろう。一方、日本近海にはイセエビこそ生息しているが、ロブスターが生息していない。だからロブスターは英語そのままでロブスター、またはオマールエビ、ないしウミザリガニという名称で呼ばれているんだと思う。これがイセエビとロブスターが混同しない理由なのかな。
世界各国の言語でのポケモンと生物の名前を比べると、生物と人類の歴史の深みが垣間見えて面白いなぁ。
最後に、ロブスターにまつわるポケモンといえば、もう一種いる。ブロスターだ。こちらはブロスターというポケモン自体にロブスター要素が含まれてるとはあんまり思わない。図鑑説明に書いてある、大きいハサミがおいしいというくらい。むしろこのポケモンの最大のモチーフはテッポウエビだ。テッポウエビは片方のハサミが肥大化し、高速で閉じることで衝撃波を発生させ攻撃する。抱卵亜目コエビ下目の立派なエビ類だが、やってることはほぼポケモンみたいな生命体だ。ウデッポウ・ブロスターはまさにテッポウエビをモチーフとしたポケモンで、そこに爆発のblastとロブスターからとった名前をつけたとみるべきだろう。
テッポウエビのポケモンに、関係ないはずのロブスターがいきなり登場する。どんだけロブスターをポケモンに出したいんだ?まさか、本当にポケモンの制作陣の中にはロブスター好きがいるというのだろうか・・・
美味しいものみたい!というリプもらったのでーー! pic.twitter.com/XpilIpueF7
— 増田順一@Pokémon (@Junichi_Masuda) 2017年3月18日