新宿ポケモン学会!? 学問バーKisi「ポケモンから見る学問・学問から見るポケモン」レポ

2023年12月22日、金曜日。17時。リモートポケモン学会学会員、二枚貝ホタテは都内某所、勤務しているオフィスにいた。今日は仕事でミスを2個ほどやらかした。定時を過ぎても部長の説教はやまない。今日のうちにやらなくちゃいけないことはいろいろあるけど、全部放り出して職場を後にする。

新大久保で山手線を降りた。駅の近くの見慣れぬ店でワッフルが売られている。やはり新大久保といえば流行りの軽食を買って食べ歩きだな。チーズコーンワッフルとやらがある。おそらく総菜クレープみたいな、そんなに甘くないやつだろう。今日の夕飯にしてみるか。

 

おいめっちゃハチミツかけてるじゃねぇかやめろやめろ俺の夕飯だぞ夕飯にハチミツかけんじゃねぇわしゃプーさんか

 

終わったわ

俺の夕飯

終わったわ

 

回避率が下がりそうなほど甘い香りがただようモチモチワッフルを片手に歩くこと10分弱。学問バーKisiを擁するビルについた。3割ほど残っているがもうすっかり飽きたワッフルを急いで口に放り込む。ハチミツで手がベタベタだ。ヒメグマか?

6時15分ごろだったか。ビルの5階、それらしき部屋に入る。下戸の私はバーなど初体験だ。奥のソファー席にちょっとだけチャラそうな団体と、バーカウンターに少し人が座っている。どこに座っていいか分からず一旦手を洗う。困惑して立ち尽くしていると、カウンターに座っていた人が席を案内してくれた。カウンターの一番奥に座る。先客が、フランス語版のキュウコンの名前がいかにうまい翻訳か、マスターらしき人物に滔々と語っていた。

マスターから話を振られる。

「もしかして研究者の方ですか?」

「いえいえ、自分は研究者でもなんでもなくて。今日の5つ目の発表でリモートポケモン学会ってあるじゃないですか。あれに興味があったんで来たんです。」

そう、この日私が学問バーKisiに来たのは他でもない、

オムニバス発表会「ポケモンから見る学問・学問から見るポケモン

を聞くためだ。

 

学問バーKisi(以下、Kisiと呼ぶ。)は研究者がバーテンダーとなり、客と対話するという一風変わった知的なバー。この日は研究者たちがポケモンに関する発表をするというイベントが開催されるのであった。

5つの発表の中には、発表者として2回携わったリモートポケモン学会の発表もある。本当なら、金曜日の夜はアニポケを見たくてすぐに家へと帰るのだが、リモポケ学会案件とあらば話は別だ。

マスターにリモートポケモン学会の話をすると、さっきまでフランス語の話をしていた人物が反応する。彼もまた、学会の登壇者だというではないか!

彼は自分と直接のやりとりがあまりないにもかかわらず当ブログに何度か登場しているカルフール氏。(勝手に登場させるんじゃない)第7回リモートポケモン学会の発表者で、フランス語への翻訳という観点からポケモンを調べている。

remopoke.com

(まぁフランス語のキュウコンの話している時点で予想はついていたけど)

リモポケ学会関係者と初めて直接お会いする。当たり前だけど、リモポケ学会関係者って実在するんだな。ずっとオンラインで顔が見えないから、ワンチャン人じゃないかもしれないと思っていたが、ちゃんと人間だった。

そんなこんなでなんやかんやで6時半。1つ目の発表が始まった。

 

1本目:ポケモンに生きる権利はあるか

最初は生命倫理のお話。ポケモンは「友達」なのか「道具」なのかを投げかける。初手から生命倫理は、重いよ。

ゲーム内では、ポケモンは友達という表現がある一方、サカキのようにポケモンを道具としてみるキャラクターもいる。生きる権利、換言すれば道具にされない権利について、発表者はパーソンという考えを紹介。発達した大脳と自我を持つ人間はパーソンであり、道具にされず生きる権利を持つという。そしてポケモンのなかでも人語を話すポケモンはパーソンであり、話すポケモンは皆ボールに入らず特別な扱いを受けている!たしかに!これはポケモン観が大きく変わる発見だ。

ポケモンは、そして生き物は友達か道具か。生物の生きる権利を認めれば問題が生じるが、かといって認めないわけにもいかない。というか、道具or友達に分類すること自体可能なんだろうか・・・?ポケモンを通して我々の世界の複雑さ、分けることの難しさを考えさせられた。

ちなみに動物だって人語を教えれば会話できないこともない。インコの仲間であるヨウムのアレックスという個体や、ニシローランドゴリラのココという個体だ。アレックスは英文法をしっかりと理解して質問に答えることができた。ココは手話を理解しコミュニケーションができた。会話できるポケモンもそんな感じなのかなぁ。

アレックスと同じ種、ヨウム ズーラシア

 

2本目:新ポケモン、ミミズズの生態に迫る!

(ややこしいからミミズとミミズズの色変えておくね)ミミズ研究者が、ミミズズと現実世界のミミズの共通点、相違点を紹介。生物にまつわる文化についても調べているという。ミミズズはたかさ2.5mだが、巨大なミミズはそれと同じくらいの長さになるんだとか。でもミミズって割と伸びたり縮んだりするし、長さってどう測るんだろう・・・。ほかにも、色違いのミミズズみたいに青いミミズがいるとか、トカゲみたいにしっぽを切る種類がいるとか。ポケモンの世界にちりばめられた細かすぎて伝わらないミミズ要素を丁寧に拾っていった。

自分も生物とポケモンの関係を調べているので、どストライクどころかどハッサムの発表である。

一応自分もポケモンと生物を比較する「比較ポケモン生物学」という記事を書いている身。ミミズズの考察について語らせていただきたい。ミミズとミミズズを比較するうえで重要なのは、ミミズズが狭い生物をモチーフとしているのではなくミミズ全体のイデアをモチーフとしていること。たとえばこれが「シボミミズズというポケモンで、明確にシーボルトミミズをモチーフとしています」だったら?シンプルにシーボルトミミズシボミミズズ(仮)の共通点と相違点を考えればいい。しかしミミズズはそうではない。ミミズという大きな分類群をポケモン化した存在なのだ。一般人からすればミミズという生物の解像度は低い。実際にはミミズの仲間と言ってもいろんな種類のミミズがいて、それぞれが違う特徴を持っているが、一般には知られていない。そこら辺を歩いている人に「犬の品種を5つ言ってください」といえば、多分1つ以上出てくるが、「ミミズの種類を5つ言ってください」と聞けば、1つも返ってこないだろう。知られていない多様なミミズの中には、ミミズズと特徴が被るものもいるだろう。でも、それは果たしてミミズズのミミズ要素といえるのか?ミミズの多様性が高すぎてたまたまかぶってるだけじゃないか?

まぁ、面白いから別にいいか!

印象に残っているのが、ソファ席に座っていたちょい陽キャっぽい人が、今までミミズとミミズズは気持ち悪いと思っていたが印象が変わった、ミミズズかわいい、シーボルトミミズきれいだと言っていた。やはりポケモンとそのモチーフを紹介することで、ポケモンと現実世界、双方の解像度が上がり、偏見を取り除き、新しい魅力に気づくことができる。こんな風に、聞いている人々に新しい気付きを与えるような、この世界の知られていない魅力を伝えられるような、そんな研究がしたいなぁ。

 

3本目:拡張される虚構世界:ポケモンと文学的想像力の交点

生物の話から一転、文学(哲学?)の話。フィクションより結局現実の方が大事、みたいな考えもあるが、虚構世界にもまだ見ぬ価値があるという。現実世界に普段気づかない魅力がある。例えるなら、いつも歩いている道に、今まで見たことのない店を発見するかのように。それと同じように、虚構世界の中にも潜在的な魅力が隠れているのだという。

なんかさっきのミミズズ陽キャの話とつながったな。彼もミミズズという虚構の魅力、そしてミミズという現実の魅力をはっけん!したのだから。

発表後、客から、「ゲームにバグを発生させ、要素をランダムにして遊ぶことは正しいのか?」という質問が出た。これに対し、ゲームの新しい楽しみ方を見つけるというのは虚構世界の拡張だという。虚構の新しい楽しみ方を塗り替えていく、というフレーズが、やけに心に刺さった。

ところで、リモートポケモン学会では様々な研究、時には妄想のプレゼンが行われる。これは拡張された虚構世界、新しく塗り替えられていく楽しみ方なのだろうか?基本的に自分がやっていることは、ポケモン世界の生物と我々世界の生物を比較するというものだ。これは虚構の話?現実の話?それとも、虚構と現実の間の話?虚構が現実を豊かにしているともいえる?

再び、フィクションより結局現実の方が大事だろうがという話。でも、虚構は現実を全然豊かにしてくれていると思う。発表者は実況者のもこう氏を例に出し、虚構世界に傾倒することが巡り巡って現実の生活を豊かにすることもあるという。ニコニコに尖った投稿をしていた氏について「もこう先生は現実を生きていない」とも言っていた。パワーワードすぎるだろ。

ちなみにこの時点でバーの中は満員、パイプイスすら足りなくなって、立ち見みたいな感じの人も出ていた。後からわかったが、発表した夢三先生の受け持つ学生さんが来ていたという。大学の先生、愛されてるなぁ。

 

4本目:現実世界の生物と「ポケモン」の比較、および「きのこポケモン」に関する考察

再び生物学の時間。この発表は大きく分けて2つのテーマからなり、まずはポケモンと生物の分類について。ポケモンには技を出したりボールに入ったりするといった共通点があり、生物学における共有派生形質と思われるため、真核生物ドメインの新しい生物分類、ポケモン界を設定するという内容だ。ポケモンだけど、ポケ門ではないのね。

そういえば、ゆるふわ生物学の配信で、ピクミンが属する分類、歩根類は界か?みたいな話題が出ていたのを思い出したり。

www.youtube.com

↑ 45:30くらいから歩根類の話

続いては発表者の専門分野、キノコに関するポケモンたち。キノコポケモンの図鑑説明にたびたび登場する、ほうしという存在が何なのかを考察していた。胞子が繁殖のためではなく武器として使われている傾向にあったり、図鑑説明に矛盾が生じていたりと、キノコ好きならではの新たな発見が興味深かった。図鑑説明にもいろんな読み方がある。同じポケモンの図鑑説明を、世代をまたいで縦に読んだり。共通項のあるポケモン同士の図鑑説明を比較して横に読んだり。自分はキノコの解像度が低いので、そこまで深く考察できず、さらっと読み流して終わっちゃうなぁ。図鑑説明の読み方の面白さを体感できるのも、ポケモンと生物の双方に興味のあるが発表してくれるおかげ、そして発表の場を設けてくれる人のおかげである。

 

5本目:ポケモンの学会!?:現役スタッフとリモートポケモン学会の魅力に迫る

時刻は10時過ぎ。いよいよお待ちかね、リポ学の発表だー!

と思いきや、ソファに座っていたちょい陽キャ風集団がお会計を始めた。もったいない!さすがに発表者のりーるさん(この日のHNはりゅうくさん)も、彼らがお会計をしている短い間にリモートポケモン学会の紹介と、次回の日付をしっかりと宣伝していた。えらい。

結局バーに残ったのは、二枚貝ホタテ、発表者でAIのりーるさん(りーるさんはAIではない)、フランス語のカルフールさん、同じくフランス語の使い手で途中から来ていた発表経験者のtats.tさん、他に女性のお客さんが一人と、バーのマスター、キノコポケモンの発表をしたXenonさんの7人。うち4人がリポ学関係者。過半数じゃん。ここでリポ学の宣伝してどうするんだ。

発表も最後となり、少人数でほぼ身内。かなり和やかなムードで、りーるさんも客もマスターも仲良くしゃべりながらりーるさんの発表を聞いていた。それまでの講演みたいに一方的に発表を聞くのも悪くない。だが、発表者と聴衆という立場の違いもなく、ダラダラと、和気藹々と、好きなポケモンや発表の思い出を語り合う時間。なんと落ち着くことか。

自分は、パルシェンの発表をしたとき、「アサリの前はどっちか」というクイズを出し、いろんな答えが返ってきたというエピソードを話した。なかなかクイズ出す機会ないし、ましてやいろんな答えをもらえる機会はなおさらないので、とても参考になる。

発表の中でりーるさんはリポ学の魅力として、生物学や語学や工学など、様々な切り口からポケモンを解き明かすことが面白いと言っていた。同感。多分自分も前にブログでそんな感じのことを書いた気がするレベル。ポケモンと、それにかかわる別の分野の双方に詳しい人が、その知識を生かしてポケモン世界の謎を解き明かしたり、逆に現実世界の魅力を伝える。それがリポ学の魅力だと思う。

 

スゴいなKisi 改めてスゴいなリポ学

リポ学発表経験者という立場でこのイベントに参加して思った、それぞれの長所と短所。

Kisiの方は、本当に学問に熱心に取り組んでいる方たちが話されていて、難しい内容ではあったが、その専門性の高さに感心した。逆に言えば、そんな方たちからも愛されるポケモンというコンテンツが如何に面白いか、いや、文学の夢三先生の言葉を借りるなら、「潜在的な魅力を秘めている」かを全身で浴びるように感じた。さすがだよ研究者。やっぱ最高だぜポケモン。そして研究者を集められるKisiという存在のありがたみよ。一方で、ポケモンに関する知識、ポケモンワールドの研究手法については、伸びしろがあると感じた。自分も決してポケモン学に秀でているわけではないから、お前ごときが言うなという話ではあるが、ポケモン側についての理解度が低かったり、ポケモンを考察する手法が甘いという印象。リポ学は「ポケモン好きが中心となって、ポケモンの研究や妄想を語る。たまにほかの分野に詳しい人もいる。」場であり、今回のKisiのイベントは「研究者がその知識や思考を応用してポケモンを語る」場だった。ポケモンか、アカデミックな専門性か。どちらに重きを置いているかに違いがあったように思う。研究者の話をポケモンに絡めて聞きたいポケモンライト勢にとっては、Kisiのイベントはとても良かったと思う。だが、もし自分が、今回の発表レベルのブログをアップしたら、ポケモンガチ勢からの玄人質問でめった刺しにされるだろう。そう、前回書いたシザリガー考察記事があまりウケなかったように・・・。ウッ。

あと、リポ学の丁寧さを体感した点がある。リポ学で発表する場合、本番1週間前にスライドの提出を求められる。それをスタッフがチェックしてから本番を迎える。だから発表者は基本的に本番前にスライドを完成させているし、1週間の猶予でばっちりリハーサルもできる。その点Kisiのイベントはどうかというと、スライドの完成度が低いという点ではもっと改善できそうだと思う。

そしてリポ学参加者が集まって和気藹々と話ができたこと、その感動も大きな発見だった。たしかにオンラインは距離を超えて気軽にたくさんの人とつながれる。関東でも関西でも九州でも何の問題もない。顔も見えないからプライバシーもバッチリだ。ただ、オフラインの方がいい感じの「ゆるさ」がある。YouTubeのコメント欄にコメントしたり、リポ学/リポラジで話す時って、テキトーなことを言っちゃうと永遠に残ってしまうわけよ。でもオフラインだったら、結構テキトーなこと言ってもいいじゃん。どうせ残らないし。ゆる~く独り言みたいなこと言えたり、茶々を入れたりするのはオフラインじゃないとできないと思う。運営さん、どうでしょう、ここはひとつ、オフラインでリモートポケモン学会をやるというのは。新宿にいい会場があるみたいなんで。

ついでにいうと、プロジェクターでスライドを投影する場所がホワイトボードになっているので、アドリブで絵や矢印を書き込んだりできるのもGOOD。まぁパワーポイントでもやろうと思えばできるけどね。

どちらにも長所があって、それぞれの面白さがある。そこに気づけたのは、リポ学とKisiの両方に参加したからであり、2つのイベントを準備してくださっている皆様のおかげである。ポケモン考察勢のはしくれとして、このような機会が増えてくれることを、ポケモンを通してポケモンと世界の魅力を知る人が増えてくれることを、心より望む。

ポケモンはただのゲームか?ただのフィクションか?いや、ポケモンを考察することで、私たちが生きるこの世界をより深く知り、もっと楽しめる。

たかが虚構?いや、虚構世界の中にも人知れぬ魅力がいっぱい潜んでいるし、なんなら、現実世界の魅力だって、明るく照らし出してくれるじゃないか。

それまで知りえなかった話が、ポケモンの話だからという理由で、知るきっかけができ、すんなりと頭に入っていく。それがポケモン×学問の大きな意義だと、いちリポ学学会員は思うのであった。

 

そんな、学問とポケモンが交錯する面白い発表も聞けちゃうイベント、リモートポケモン学会が、次回ついに第10回を迎えます!第10回は2024年2月24日(土)、25日(日)で開催!誰でも無料でYouTube配信を見られるよ!みんな、絶対見てね!