コメント類、二枚貝ホタテにできること ~リモートポケモン学会 学会員の視点から~

本稿は2023年8月1日に配信3周年を迎えるゆるふわ生物学について、ファンの立場で記述するレポートである。ゆるふわ生物学は、ゲームに登場するキャラクターや背景に描かれているものなどを生物学の観点から考察する動画配信を行っている。筆者はゆるふわ生物学のファン、通称コメント類であり、過去2回Twitterにゆるふわ生物学に関するレポートをアップロードしている。黒歴史なんで全然読まなくて大丈夫です。マジで。読まんといて。

 

本稿では、コメント類である自分にできることは何か、というファンの立場の展望を考察する。

筆者はコメント類であると同時に、2023年2月4日に第6回リモートポケモン学会で発表を行い、また8月19日の第8回リモートポケモン学会で発表を控えている、同学会の学会員でもある。本稿ではリモートポケモン学会における運営と一般参加者の関係から、ゲームを考察するコンテンツについて考える。

なお、昨今SNSTwitter」の名称が「X」に変更されたが、本稿では旧来のTwitterと呼ぶ。

 

リモートポケモン学会の構造と魅力

リモートポケモン学会は、ポケモンについての発表をYouTube上で配信する非公式ファンイベントである。2021年11月6日に第1回の配信が行われ、8月19,20日には第8回が開催される。たわし氏(twitter : @soItawashi)が主催を務め、複数の有志運営メンバーによって配信がなされている。運営スタッフによる発表者への配慮は大変に手厚く、適切な準備さえすれば誰でも学会の発表者になることができる。特にツテがあるわけでもない筆者においても、第6回リモートポケモン学会で発表することができた。運営スタッフが発表者を兼ねることもあるが、基本的には一般参加者が自主的に応募し、自身の関心のある内容について発表を行う。この参加者というのが、そんじょそこらのポケモン好きではない。ゲームを受動的に遊んで終わるのではなく、様々な切り口、時には専門性の高い分野の知識を用いてポケモン世界を解析しているのだ。

 

リモートポケモン学会の魅力として、様々な切り口からポケモンを解析する発表により、ポケモンというコンテンツに関する解像度が上がることだと筆者は考える。

今やポケモンは発売から27年が経過し、登場したポケモンの種数は1000を超えた。この巨大なポケモン世界をいち個人が把握しきることは不可能となっている。そこで様々な分野に関心のある個人が集まり、それぞれの得意分野の発表をする。これを視聴することで、自分にはない知識、自分では絶対にたどりつかないであろう視点からの考察を楽しむことができる。これにより広大なポケモン世界への理解が深まるのがリモートポケモン学会の面白さだと筆者は考える。

 

リモートポケモン学会を構成するのはごく一部の熱狂的なポケモンマニアだけではなく、だれもが考察に参加できる。学会での発表のみならず、ポケモンファンたちの集合知を効率よく集める仕組みとしてポケモン週末レポートが存在する。この企画は、毎週金曜日にお題となるポケモン1種が発表され、土曜日の18時から日曜日の間に1ツイート、最大でも140文字と画像4枚でお題のポケモンについて報告するというものだ。

この、「誰もが考察を発表する側になれる」という構造こそ、リモートポケモン学会の神髄であり、受動的な考察の受け取りにとどまらない魅力だと筆者は考えている。ファンによる考察が集まる構造により、一層理解を深めるヒントとなる。なお、筆者個人の体験として、他のファンたちによる考察、発表を見ることで、筆者自身も考察をしたい、と思うことがある。自分にはできないポケモン考察がヒントとなり、新たな考察への呼び水となるのである。

ぽわぐちょである。

 

コメント類は考察に参加できるか

リモートポケモン学会の魅力は、ポケモンファンたちの集合知を用いたポケモン世界への解像度の増加である、と筆者は考える。少数のエグいポケモンマニアの考察を聞いておしまい、ではなく、複数のポケモンファンによる多様な視点からの知見を楽しめるのだ。

では、ゆるふわ生物学において、一般のファンであるコメント類が同様に参加できるだろうか。リモートポケモン学会とゆるふわ生物学を比較したとき、コメント類が積極的に考察に参加するのは難しいと思われる。

リモートポケモン学会のコミュニティがポケモンという1コンテンツの愛好家によって形成され、それぞれの専門分野は違えどポケモンという共通のテーマを扱っていることと比べ、ゆるふわ生物学は扱うゲームのジャンルも多岐にわたり、生物学の扱う範囲も広いことから同じ話題でつながるのは難しい。特にポケモンというコンテンツと、生物学という学問分野では前提となる知識のハードルが全く異なる。学問として成立している生物学について、一般ファンが参加するのは心理的にも難しいだろう。特に筆者は動物の生態を中心に調べていることもあり、植物や菌、原生生物や原核生物、あるいは細胞やDNAといった分野について全くの素人である。こうした生物学の扱う範囲の広さは生物学の魅力であると同時にハードルの高さでもある。何より、ゆるふわ生物学にはリモートポケモン学会におけるポケモン週末レポートのように一般ファンの知見を収集する仕組みがあるわけではない。

これについてはゆるふわ生物学が劣っているということは一切なく、むしろ普通のYouTubeやその他コンテンツがそうであるように、コンテンツの提供者と享受者において一方通行的に情報が受け渡されるという構造となっている。

㕦  ( ( ( ( コンテンツ   ← コンテンツの受け渡し

これが普通であり、一般ファンが当然のように参戦するリモートポケモン学会の方が異常であるといえる。

 

なお、ゆるふわ生物学の視聴者がTwitter上で考察を発表した事例がないわけではない。ゆるふわ生物学の活動は、視聴者の考察意欲を掻き立て、創作世界についての解像度の向上に役立っている。具体事例として以下のツイートを引用する。

 

事例は少ないが、ゆるふわ生物学の活動が創作世界に関する考察のきっかけとなっていることが分かる。創作世界と現実世界の生物で共通点が見つかったり、創作世界の事象が現実世界の生物学の理論を用いて納得のいく説明がついたとき、それを見つけた時の興奮は語るに及ばない。

また、筆者が第6回リモートポケモン学会で発表したヤドランのしっぽについているシェルダーに関する考察もゆるふわ生物学の配信を参考としている。

 

とはいえ、やはりコメント類が生物学とゲームについての包括的知識を持ったうえでゲームの生物学的考察を一から完成させるのは難しい。そんな中でコメント類にできることがあるとしたら何だろうか。筆者は、生物やゲームに関する断片的な情報だけでも提供、整理することはできるのではないかと考えている。

ゆるふわ生物学の主たるコンテンツは生配信によるゲーム実況である。配信の最中にはキャラクターの名前が思い出せなかったり、現実生物における具体的な事例を求めたりすることが稀にある。そうしたとき、コメント欄でヒントを提供することは、ゆるふわ生物学ならではのファンの参加ではないだろうか。例えばリモートポケモン学会では事前にスライドを用意し、その通りに発表するため、発表中に一般ファンが考察に参加するということは原則としてありえない。筆者が発表した際もYouTubeのコメント欄を見る余裕はなく、あとから見返したものである。視聴者が発表者に意見を出せるのは発表後の質疑応答において質問を投げかけるくらいである。

もっとも、リモートポケモン学会のコメント欄は非常に盛り上がる。特に増田順一氏の話題が出た時には頼んでもないのに増田で埋め尽くされる。増田氏の話題が出てこなくても増田で盛り上がることすらある。しかしこれは考察に参加しているというわけではなく、コメント欄の空気感を楽しんでいるものである。その点、ゆるふわ生物学の生配信は台本のない行き当たりばったりの配信であり、視聴者のコメントを柔軟に取り入れながら配信が進むことも珍しくない。そこでコメント欄に考察のヒントになりうる情報を書きこむことで、視聴者も一体となり協力して考察ができる。これは配信しながらゲームの考察をするコンテンツならではの参加の仕方、楽しみ方である。

筆者はゆるふわ生物学のコメント欄に書き込む時、純粋な感想を述べることも多々あるが、それ以外にも補足情報、関連する専門的な単語、登場した単語を漢字で書いたときの書き方やその漢字の意味、時にジョーク(ごくまれにウケる。よくすべる。)を発信している。また視聴者が勘違いしそうな情報などについて訂正的なコメントを入れることもあり、例として2023年7月21日のピクミン4の配信『#1【ピクミン4】生物学ガチ勢がピクミン最新作で調査開始!』ではロッキー氏が最小の花を咲かせる植物として「ミジンウキクサ」と聞き取れる発言をしたのに対し、正しい名称はミジンコウキクサであることをやんわりと伝えるため、筆者は「ミジンコウキクサ、ミジンコより小さい」とコメントを入力している。

ロッキー氏がミジンウキクサと発言するシーン

#1【ピクミン4】生物学ガチ勢がピクミン最新作で調査開始! - YouTube

なお、実際にはミジンコウキクサと発音しているのかもしれないし、筆者の知識不足でミジンウキクサの方が正しいのかもしれないが、現状インターネットで検索してもミジンウキクサという単語はほとんどヒットしない。

逆に筆者は7月30日の配信のコメントで「シエラ・ネバダは新しい山脈という意味」という誤った情報を発信してしまい、気づいた直後にコメントを削除したものの配信内で読み上げられてしまった。補足情報を流す際にコメント類自身もまた細心の注意を払うべきだと痛感したものである。なおシエラネバダの正しい意味は「雪のかかった山脈」である。

 

筆者はゆるふわ生物学について、コンテンツを提供者から享受者へ一方通行的に受け渡される形式と述べたが、生配信でのゲーム考察においてはそうではない。配信におけるコメント欄での考察等への参加ができるという点で、一般的なコンテンツとも、またリモートポケモン学会とも異なる参加形態のコンテンツだと考える。

コメント類が集まり、それぞれの得意分野を生かし、持ち合わせた情報をヒントとして出し合い、時に誤情報を訂正しあいながら、一つの考察を作り上げていく。それこそがコメント類にできることなのではないだろうか。一人で考察を完成させなくてもいい。たとえ断片的知識であっても、コメント欄に放流し、視聴者と配信者に手がかりを届けることがコメント欄にできる参加なのだと筆者は考える。リモートポケモン学会の、ポケモンファン個々人が単独で考察を作り上げ完成品を持ち寄るのとはまた趣向の異なる参加形態だ。

筆者は、ゆるふわ生物学とリモートポケモン学会の間に優劣をつけるつもりは一切ない。それぞれに独自のゲーム考察システムを持ち、それぞれのスタイルで、広大なゲーム世界と現実世界の理解を深め解像度を向上させる。この形態を生み出した「偉大な先人」たちを心より尊敬する。

これからもリモートポケモン学会学会員兼ゆるふわ生物学コメント類として、皆様の楽しいゲーム考察の一助となれたら幸いである。