「鳥は恐竜」を考える ~第2章 ザ・フライング・ダイナソー~

こんにちは。動物マニアの二枚貝ホタテです。

 

鳥は恐竜なのか、恐竜ではないのか。この問題について考える第2回です。第1章では

・生物の分類は、大きなグループの中に小さいグループ、その中にさらに小さいグループという階層構造で整理している

・生物の分類は、人が整理しやすいことが重要であり、生物の進化の歴史とかみ合わないことがある

という話をしました。

今回はいよいよ物語の主役、鳥と恐竜について考えます。

ティラノサウルスは爬虫類

Dinosaurという言葉を生み出し、恐竜という分類を提唱したのは、リチャード・オーウェン。恐らくですが、映画「ジュラシック・ワールド」の主人公の名前は彼からとっているのでしょう。Dinosaurとは恐ろしいトカゲという意味で、恐竜の名前によくついているサウルスという単語もトカゲのことです。また、最初に名前が付けられた恐竜の一種であるイグアノドンは、「デカいイグアナの歯が見つかった。これはデカいイグアナがいたんだな」という感じで、発見当時は単なるデカいイグアナだと思われていました。

事実、恐竜はトカゲやカメ、ワニと同じ爬虫類の仲間です。ただ、他の爬虫類とは足の生え方が違います。トカゲなどは胴体から足が横に生えています。前足は腕立て伏せや貞子のような感じ。後ろ足は四股を踏む力士のような蟹股のイメージ。一方恐竜は、足が横に伸びず、すぐに下へと降りていきます。

いきなりポケモンの話で恐縮ですが、コライドンはトカゲと同じ蟹股、モトトカゲは恐竜と同じ下に伸びる足をしています。もしやモトトカゲは恐竜?トカゲって名前ついているけど、まぁ、恐竜だってサウルス(トカゲ)って名前についているわけだし、別にいいか。

閑話休題ティラノサウルストリケラトプスは、足の生え方が特殊ですけど、爬虫類の一部です。一方、鳥は爬虫類に含まれません。

 

鳥 Episode:ZERO

恐竜といえば大きい、というイメージがありますね。しかしティラノサウルスなどの肉食恐竜が属する竜盤類の仲間には数十センチしかないミニ恐竜もいました。名前に小さいを意味するミクロがつく、ミクロラプトルなどです。現代でいうリスやサルのように、樹上生活しながら暮らす恐竜もいたことでしょう。木の上で暮らす動物にとってストレスなのが、木から木へ移るとき。一回地面に降りてまた登るのは大変だし時間とエネルギーの無駄。そのうえ地上は大きな肉食動物がいて危険です。できることなら、ジャンプで遠くの木まで移りたい。そんな進化を遂げたのがモモンガのように滑空する動物。下まで降りずに木から木へ移動する能力を進化させた動物です。

樹上生活するミニ恐竜の中にも、モモンガのように進化したものが現れたことでしょう。手足を広げ、木から木へ、紙飛行機のように斜めに落下する恐竜です。さらに時が流れ、腕を上下に羽ばたくことで飛行能力が向上、そうして生まれたのが、鳥類と考えらます。

もっとも、恐竜が翼を手に入れるきっかけについては様々な説があります。今書いたのは、国立科学博物館で恐竜を研究する真鍋真副館長が恐竜博2023のギャラリートークで話していた内容に自己流の解釈を加えたものになります。

ではここで、文字通り鳥の始祖とされる始祖鳥に登場してもらいましょう。恐竜のような顔としっぽ、鳥のような羽毛、鳥っぽいけど爪の生えた翼を持つこのキメラ的生命体は、空を羽ばたいて飛ぶことが苦手だったと考えられています。鳥が力強く羽ばたくには発達したムネ肉、すなわち大胸筋が必要です。巨大な大胸筋がつくには、土台として骨も大きくないといけません。その大胸筋を付ける土台というのが、胸骨から前に向かってどーんと飛び出た竜骨突起。現代の空を飛ぶ鳥やペンギンにはこの突起がありますが、始祖鳥にはありませんので、恐らく始祖鳥は羽ばたくことはせず、モモンガのように滑空だけしていた、と推測されています。

 

鳥か?恐竜か?少なくともスーパーマンじゃない!

現在、「鳥は恐竜の中から進化してきた」という説はほぼすべての生物学者が同意しています。鳥の特徴を持つ恐竜がたくさん発見されていることも理由の一つです。先ほど一瞬だけ登場したミクロラプトル。この恐竜は、前足と後ろ足の両方が翼となっており、やはり滑空したと考えられています。その復元図を生物マニアでない人に見せてこれは何かを尋ねたら、これは鳥だと答えることでしょう。

鳥と恐竜は全然違うじゃん。というのは素人の意見です。今や「これは鳥か?それとも恐竜か?」と判断に悩むような化石が出てくるのです。そこで、恐竜学者・古生物学者は、こう考えるようになりました。

”恐竜は、鳥を含む。”

現在、恐竜という単語の定義として、以下のようなものが使われることがあります。

トリケラトプスと鳥類の最も新しい共通祖先とその全ての子孫」

なんなら、鳥類の部分をスズメに変えることもあります。この定義でいえば、当然スズメも恐竜です。ニワトリもダチョウも恐竜。

 

世界三大恐竜博物館の1つ、福井県立恐竜博物館。そのHPの恐竜・古生物Q&Aにはこう書かれています。

恐竜ってどんな生き物なの?
中生代三畳紀に地球に現れた爬虫類のグループの一つです。大きいものも小さいものも、肉食のものも草食のものも、絶滅したものも現在生きているもの(=鳥類)もいます。ワニやカメ、トカゲ、魚竜、首長竜、翼竜などは別の爬虫類のグループに属していて、恐竜ではありません。

鳥が恐竜ってホント?
鳥類は、羽毛の生えた獣脚類(羽毛恐竜)のなかまから進化したことがわかっています。このことなどから、現在では、鳥類も獣脚類の一部に含まれると考えられています。ですので、現在も1万種ほどの恐竜類が世界中にいることになります。

近年の相次ぐ羽毛恐竜の発見から、祖先の獣脚類から鳥へ、次第に羽毛や骨格が飛ぶことに適応して変化していったようすが明らかになってきました。「いわゆる恐竜」と「いわゆる鳥」との中間的な姿のものが多く見つかっていますが、一般には始祖鳥とそれ以降の子孫が「鳥類」と呼ばれています。

第1章冒頭で、WoWキツネザルさんの投稿を紹介しました。鳥は恐竜です、と断言するツイート。少なくとも、古生物学者の唱える恐竜の定義でいえば、鳥は恐竜の一部として扱われており、鳥は恐竜といっても間違いないのです。

 

鳥のトリレンマ

さて、鳥は恐竜から進化してきたことが分かりました。というか、そういう説がほぼすべての学者によって支持されています。また、恐竜学者は恐竜というグループに鳥を入れると考えているみたいです。

では、リンネ式階層分類体系について考えていきましょう。

まずはティラノサウルス・レックスの分類から。

動物界 脊椎動物門 爬虫綱 竜盤目 ティラノサウルスティラノサウルス属 レックス

となります。爬虫綱は爬虫類のことです。では、鳥の分類は?スズメの分類は以下の通りです。

動物界 脊椎動物門 鳥綱 スズメ目 スズメ科 スズメ属 スズメ

鳥綱は鳥類、シンプルに鳥のことと言って問題ないでしょう。ここで、鳥は恐竜に含まれるか考えてみます。

恐竜は、爬虫類の一部です。で、仮に鳥は恐竜の一部とします。この時、鳥は爬虫類の中に含まれることになりますね。何言ってるか分からないよ、という方は、紙に三重の丸を描いてください。一番大きい丸の中が爬虫類。トカゲもティラノサウルスもこの中に入っています。その中にある中くらいの丸が恐竜。一番小さい丸が鳥です。どうですか?鳥、爬虫類の丸に入ってますよね。

しかし、鳥は爬虫類には含まれません。ティラノサウルスは爬虫類ですがスズメは鳥ですね。鳥綱は爬虫綱と別のグループとして扱います。恐竜というグループは爬虫綱の中に入っていますから、爬虫綱の外にいる鳥綱は恐竜には入ることができないのです。

つまり、矛盾が生じているのです。

①鳥は爬虫類ではない

②恐竜は爬虫類の一部である

③鳥は恐竜の一部である

の3つが同時に成立することなどありえないのです。このように3つの条件のうち2つが成立すると残り1つが成立しない矛盾したシチュエーションをトリレンマといいます。ジレンマのジを、3を意味するトリに変えたものです。鳥だからではありません。

分類の世界において、鳥は恐竜です、と言ったら間違いなのです。

 

そもそも生物の分類は人間が整理しやすいように分けているもの、でしたね。生物のグループAからグループBが進化したからといって、BをAに含む必要はないのです。

例えば、脊椎動物無脊椎動物の中から進化しました。最初の動物に骨なんてなかったわけですから、当然最初の脊椎動物無脊椎動物から進化したはず。では、「脊椎動物無脊椎動物に含む」「脊索動物は無脊椎動物の一部だ」「脊椎動物無脊椎動物です」と言ったらどうでしょう?さすがにおかしいですね。脊椎動物無脊椎動物に含まれないように、鳥が恐竜から進化したからって、鳥を恐竜に含む必要性はないのです。

現在広く使われている分類は、化石で見つかる古生物に向いていません。生物の進化はグラデーションのように進みます。人間が、こうしたら整理しやすいようねと言いながら勝手に境界線を引く行為、それが分類なのです。そもそも生物に区切りなんてものはなく、どこから鳥、どこまでが爬虫類と人間が勝手に線びきしようとしているだけです。爬虫類と鳥の境界線はどこかを考えると混乱が生じるのは当然の帰結です。だって、そんなものないんですから。

現在、鳥は恐竜とする派閥と、鳥は恐竜ではないとする派閥が存在します。どうすればこの混乱を無くすことができるのか。素人ながら思うのは、「恐竜と鳥を含む新しい分類群の名称」を作った方がいいということです。

分類は生物研究とともに再編されることがよくあります。例えばクジラ。かつてはクジラ・イルカを独立した一つの分類、クジラ目としていました。しかし化石やDNAの研究により、クジラ類とカバ類が近い仲間であると判明しました。カバは偶蹄類。ウシやブタと同じ仲間です。カバはクジラに近い仲間なのに、ウシやブタに近いことになっている。正しくするには、カバを偶蹄類から外してクジラに入れるか、クジラを偶蹄類に入れるかの二択。分類学は後者を選びました。現在、クジラ偶蹄目、ないし鯨偶蹄目という分類がクジラとカバのために生み出され、ここにクジラもイルカもカバもウシもブタもキリンもシカもラクダも入っているのです。

鯨偶蹄目という新しい分類が生み出されたように、鳥が恐竜の一部から進化したと判明した時点で、鳥と恐竜の両方を含む新しい分類群を設定するべきだったと思います。そうすれば、このような混乱は生まれなかったことでしょう。恐竜という言葉に、それまで鳥を含んでなかったのに、いきなり鳥を入れてしまった。これが古生物学と分類学がかみ合わない原因だと考えています。

まぁ、世界中の天才恐竜学者がこんなアイデアを思いついていないわけがないので、恐らく何かしらの欠陥があるんだと思います。分かる方教えてください。

 

そもそも、恐竜という単語の定義があいまいでぐちゃぐちゃです。古生物の世界では鳥を恐竜に含めますが、日常生活では鳥は恐竜に含めないことが多いです。そのうえ図鑑なんかでは、恐竜図鑑に鳥はあんまり載ってないどころか、あろうことか翼竜や首長竜といった、恐竜ではないけど同じ時代の爬虫類まであたかも恐竜の一員みたいな顔して載ってます。恐竜という言葉がさす生物の範囲が、使う場面によって全然違うのです。

恐竜に詳しい人は、今使われている恐竜という単語がどの意味なのか、経験と知識から判断できます。

「恐竜は隕石によって絶滅しました。」

(あ、今の恐竜は鳥を含まないほうだな)

「しかし、今も恐竜は生き続けています。」

(こっちは含む方か。)

といった感じ。でも、そうやって恐竜という単語にいろんな意味を持たせ使い分けてしまった結果、このような混乱が生じているような気がするのです。

 

結論:古生物学者は「鳥は恐竜の一部だ」と考えている。しかし分類の世界では鳥を恐竜に含めていない。したがって、鳥は恐竜という文言は正しいともいえるし正しくないともいえる。

 

 

 

参考文献

www.dinosaur.pref.fukui.jp

www.dinosaur.pref.fukui.jp

natgeo.nikkeibp.co.jp