前回のブログ更新から1か月半ほど経ちました。お久しぶりです。二枚貝ホタテです。
皆さんはどれくらいの頻度で水族館に行きますか?
自分は先ごろ、3月20日~26日の1週間に7か所の水族館に行きました。
いや週7て。
というのも、3月末で有休が余ってたから消化したくて、月木金で有休とったんですわ。
行った水族館の内訳は
20日(月)サンシャイン水族館
23日(木)伊豆・三津シーパラダイス→あわしまマリンパーク
24日(金)沼津港深海水族館→幼魚水族館
26日(日)東海大学海洋科学博物館・自然史博物館→スマートアクアリウム静岡
まさか1週間で7か所、というか4日間で6か所も静岡の水族館行くとは思わんかった。
で、伊豆・三津シーパラダイスの赤ちゃんアザラシの話もしたいし、あわしまマリンパークの熱いウニ推しの話もしたいけど、今回は3月末、そして5月4日でターニングポイントを迎えた東海大学海洋科学博物館の記録を残したい。
ということで、「俺の動物園水族館図鑑」というシリーズをスタート。
第1回は東海大学海洋科学博物館。2023年3月31日をもって有料の入館は終了、5月4日から事前予約制の無料(ただし見られる期間は限定的)となった。
マニアック生物と向き合える場所。
3月26日、日曜日。この日は東海大学海洋科学博物館で講演会のイベントがあった。
博物館の歴史と未来がテーマで、講演会の後はバックヤードも見せてもらえるというものだ。楽しかったぁ!
展示と講演会を通して感じられたのは、これまでも、そしてこれからも、教育・研究に注力するということ。
その象徴が標本だ。ラブカやリュウグウノツカイを筆頭に、深海生物を研究し貴重な標本を展示している。魚の液浸標本はグロテスクで怖い、気持ち悪い、つまらないといった印象をもたれがち。しかし、深い海をほうふつとさせる青い背景に、丁寧かつ美しく配置された標本の壁はそんなイメージを軽減させてくれる。講演会でも、いかに標本を美しく見せるかに注意していた。しかもその標本がすげぇ珍しい。ビワアンコウにクラゲダコにオニオウストンガニ。やばすぎる。こんな貴重な標本見せてもらっていいんですか?マジで?なんかバチあたったりしません?
おすすめはオニオーストンガニ。トゲがパンクすぎる。もちろん水族館ではほとんど展示されない希少な生物。おそらく生物が好きな人でもそんなに知名度が高くないと思う。カニノケンカにも実装されていない。知る人ぞ知る激レアカニだ。
もちろん客に見てもらうだけが標本の使命ではない。博物館に収集された標本は、いつか来るであろう生物学研究に貢献する日のために控えている。研究者が調べたくなった時にすぐ調査できる環境は、お金では測れない価値である。博物館の標本をポエム風にいえば、過去の研究者たちの思いを、現在の研究者が、未来の研究者のために残し、彼らの意思を紡いでいく行為なのだ。
そんな東海大学海洋科学博物館の、「ワイは知の集積を重んじる博物館やでぇ~そんじょそこらのオシャレ水族館とは格が違うんやでぇ~勉強してってくれやで~」と見せつける展示がある。多分こんな口調ではない。
入ってすぐ、ニセゴイシウツボがいる水槽の解説だ。
というか、ゴイシウツボという名称は、かつて存在したが、今は無効となって消えた。
この、ゴイシウツボ消滅の経緯が、ニセゴイシウツボの水槽にラミネートされた紙で展示されているのだ。
ニセゴイシウツボはサンシャイン水族館、葛西臨海水族園、デカいドン・キホーテの店頭の水槽など、割とよく見るウツボではある。しかしその名前に秘められた歴史についての解説は、少なくとも自分はここでしか見たことがない。できることならニセゴイシウツボを展示するすべての水族館にこのラミネートを配っていただきたいくらいである。
東海大学海洋科学博物館がニセゴイシウツボの説明を掲げているのは、生物についての疑問を疑問のままで終わらせないでほしい、生物を整理し名前を付ける分類という営みについて理解を深めてほしい、という考えがあるのではないだろうか?知らんけど。
もちろん、博物館に在籍する学芸員、研究者が優秀だからこそこうした柔軟な展示ができるという事情もあるだろう。
ニセゴイシウツボのすぐ近くの壁。着眼点がエグい水槽がある。マガキガイの水槽だ。マガキガイといえば、どこの水族館にも大体いる、親指よりちょっと大きいくらいで黒っぽい巻貝だ。水槽内に勝手に生えてくる藻類、いわゆる「コケ」を食べて自動で掃除してくれるありがたい存在だ(※コケ植物ではないので私はあまりこの表現が好きではない)。当然多くの水族館にいるが、魚名板にその名が乗ることも少ない。脇役ですらない、黒子。そんなマガキガイ、オンリーの水槽。
正気か?音楽ライブで照明係のソロパートがあるようなもんじゃないか。
いや、正気を失っていたのは、自分だ。マガキガイだって立派な海洋生物の一種。水族館で水槽一つ独占したってなにも悪くない。むしろほかの水族館に行ってマガキガイを見たとき、「あ、魚だけじゃなくてマガキガイも入っているんだ」と気づける。ただの黒子ではなく、一つの海洋生物として見ることができる。多分ほかの魚が主役を張っている水槽より、マガキガイオンリーの方がしっかりとマガキガイを観察する機会になるだろう。
そうか、水族館によく行く自分の視野が狭いだけだったのだ。地方名「チャンバラガイ」というとおり杖のようなものを使ってピョコピョコ歩くマガキガイ。この仲間に特有の殻のへこみ「ストロンボイドノッチ」を持つことで長い口の稼働領域が広いマガキガイ。コケ掃除のプロのくせに自分の殻にはいっぱいコケが生える、リアル医者の不養生状態のマガキガイ。あぁ、ちゃんと注目すれば面白コンテンツなのに、どうせ掃除屋、しょせんは黒子と勝手に卑下してただけじゃないか。
たしかに東海大学海洋科学博物館は、標本をいかに美しく展示し、不気味な印象を与えないかを考えている。でも、映えとか美しさとかおしゃれとか癒しとか、そういったものに重きを置いているわけじゃない。そうだったらマガキガイオンリー水槽なんて置くわけない。東海大学海洋科学博物館は敬遠されがちな深海生物の標本なり、名前のルーツが一癖あるニセゴイシウツボなり、掃除屋マガキガイなり、そうした普段考えることのないマニアック生物たちと向き合う時間を提供してくれる水族館なんだ。公式がどう思っているかは知らないけれど、いち水族館マニアとして、そう思った。
東海大学海洋科学博物館には(生きている)イルカもアシカもペンギンもいない。スターと呼べそうな動物はシロワニとクマノミ類、それくらいだと思う。フォトスポットになりそうなクラゲ水槽もない。
だが、それでいい。その方がユニークな生き物たちとの対話に集中できる。いや、対話といってもこっちが一方的に観察するだけなんだけど。
生き物から得られる学びを多くの人に伝えたいという意思を、たしかに受け取った。そんな気がする。